2010年9月30日木曜日

研究休暇2009~2010 ミュンヘンにて。

 研究休暇は日本の大学教員生活におけるクライマックスです。一年間、自由に学術的活動ができるのです。その際に、滞在場所(日本もしくは他国)と研究テーマを自身で選ぶことができます。私は昨年の研究休暇を私にとって新しい音楽学的研究分野に充てることを決めました。詳しく言うと、漂泊の観点からみたドイツロマン派歌曲の研究です。“wandern(放浪する・歩き回る・漂泊する・遍歴する)という言葉は1800年頃“reisen”(旅をする)の同義語として使われましたが、それは徒歩旅行が中心になっていました。すでに昔から、社会的下位集団や周辺集団が徒歩で旅をしていましたが、1770年以降には市民階級や学生の間でも徒歩旅行が流行しました。このような旅行の方法はドイツ社会にしっかりと定着し、文学や芸術や音楽における重要なテーマともなりました。

私の研究は、漂泊の社会史的、文学的議論を取り入れて、ドイツの歌曲における漂泊という現象と取り組み、まとめることになります。その際に、しばしば「さすらいの歌」として表現される楽曲については、シューベルトやメンデルスゾーン・バルトルディやシューマンのようなロマン派の有名な作曲家の作品のみならず、これらの巨匠たちの、今日において多かれ少なかれ忘れられている同時代人たちの作品も考慮されます。あまり知られていない作曲家たちの作品は、今日では楽譜は市場でほとんど手に入らないので、19世紀の印刷や、部分的に手書きによってのみ伝えられている作品を収集するのには公文書館や図書館における大規模な調査が必要不可欠でした。このような図書館作業が伴うので、私は研究地としてミュンヘンを選びました。当地のバイエルン州立図書館は、プロイセン文化財団ベルリン国立図書館と並んで膨大な音楽文献を所蔵しているからです。事実、私はそこで必要不可欠な文献の大部分を探し出すことができました。しかし、不足分を補うためには、ドイツ国内やパリ、ウィーンへのさらなる図書館巡りが必要でした。私の研究のさらなる発展の為にも、文献は研究基盤なのです。したがって、私は手始めに、社会史的観点から漂泊を論ずる中で、1800年頃の旅行報告を引き合いに出します。それに加えて芸術歌曲との比較として民衆的なさすらいの歌を調査に取り入れることになります。この両分野に関してもバイエルン州立図書館はメッセージ豊かな文献を所蔵していますが、これに関しても他の図書館や公文書館の蔵書で補う必要がありました。

 私が客員研究員として招かれていたミュンヘン大学の音楽学研究所が、さらなる研究の場を提供してくれました。そこでもハルムート・シック教授と彼の共同研究者と学生とともに、研究に役立つ活発な学術的な交流ができました。


キルステン・バイスヴェンガー


(訳:T.T)

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